山口県立美術館 YAMAGUCHI PREFECTURE ART MUSEUM

じょうきゃく 乗客

香月 泰男 かづき やすお

1957(昭和32年)

油彩/カンヴァス

〈画家のことば〉
荷役作業が終ると、我々は再び貨車に乗せられて、西へ西へと十日近くも運ばれた。ざっと3000キロも走ってシーラという小さな町へついた。そこからさらに80キロの極寒の道を、トラックに乗せられてセーヤ収容所へ向う。零下30度のトラックの旅はつらかった。むき出しの荷台に詰めこまれて、雪の悪路を進む。防寒帽、防寒服の中の身体は、そのまま凍結するのではないかと思った。顔はこわばり、目をあけているのがやっとであった。
この先に人間の生きていられる土地があるのだろうか。死のみが待ち受けている地獄へ向うトラックであるとすれば、我々といっしょに、骸骨の姿をした死神が乗っているのだ、としか思えなかった。

『シベリヤ画集』(新潮社、1971年)

香月泰男【かづき やすお】
生没年 1911~1974(明治44年~昭和49年)
山口県大津郡三隅村(現・長門市三隅)に生まれた香月泰男は、東京美術学校で油彩画を学び、美術教員の傍ら国画会を中心に作品を発表しました。1967年、太平洋戦争への従軍と戦後のシベリア抑留の経験を描いた「シベリア・シリーズ」により、第一回日本芸術大賞を受賞。その作品は今日も多くの人々を惹きつけています。

寸法 116.8×72.6cm
形状 額装