山口県立美術館 YAMAGUCHI PREFECTURE ART MUSEUM

ねはん 涅槃

香月 泰男 かづき やすお

1960(昭和35年)

油彩/カンヴァス

〈画家のことば〉
私は死者が出ると、その顔をスケッチしてやった。あり合せの紙のきれ端に、鉛筆でかんたんなスケッチをして、水彩をほどこした程度のものである。もし自分が死なずに、無事日本へ帰ることが出来たら、遺族を訪ねて一人一人渡してあげようと思った。しかし、もし私が死んだら、一体だれが私をスケッチしてくれるだろうか、と思ったら暗い気分になった。この記念物も、ソ連兵に見つかって取上げられ、焼き棄てられてしまった。
スケッチはなくなったが、私は死者の顔を忘れない。どの顔も美しかった。肉が落ち、目がくぼみ、頬骨だけが突き出た死者の顔は、何か中世絵画のキリストの、デスマスクを思わせるものがあった。彼等の一人一人は私の中に生きていて、私の絵の中によみがえる。

『シベリヤ画集』(新潮社、1971年)

香月泰男【かづき やすお】
生没年 1911~1974(明治44年~昭和49年)
山口県大津郡三隅村(現・長門市三隅)に生まれた香月泰男は、東京美術学校で油彩画を学び、美術教員の傍ら国画会を中心に作品を発表しました。1967年、太平洋戦争への従軍と戦後のシベリア抑留の経験を描いた「シベリア・シリーズ」により、第一回日本芸術大賞を受賞。その作品は今日も多くの人々を惹きつけています。

寸法 130.3×194.3cm
形状 額装